ピアノを長持ちさせる湿度と温度の管理|目安と季節ごとの注意
ピアノは木・フェルト・金属でできた楽器で、湿度の影響を強く受けます。適した湿度・温度の目安と、梅雨や冬の乾燥期にやっておきたいことをまとめました。
ピアノは、木材・フェルト・金属という性質のまったく違う素材を組み合わせて作られた楽器です。そしてこの3つは、湿気に対する反応がそれぞれ異なります。湿度が動けば、木は膨らんだり縮んだり、フェルトは硬さを変え、金属は錆びる方向に進みます。同じ部屋に置いてあるだけなのに、季節によって音やタッチが変わったように感じるのは、多くの場合これが理由です。
湿度の管理は、調律や修理のように専門家を呼ばなくても、置いている側でできる数少ない手入れです。しかも効果が長い時間かけて効いてきます。逆に言えば、放っておいた分の影響も、何年かかけてゆっくり出てきます。
この記事では、ピアノが湿度で受ける影響、目安とされる湿度と温度、梅雨と冬それぞれにやっておきたいこと、除湿剤や調湿剤を使うときの注意、そして電子ピアノの場合の考え方までを順にまとめました。
ピアノが湿度に弱い理由
アップライトでもグランドでも、ピアノの内部は木の部品が大半を占めます。響板、駒、鍵盤、アクション(鍵盤を押す力をハンマーに伝える機構)の骨格まで、ほとんどが木です。木は湿気を吸えば膨らみ、乾けば縮みます。この動きがごくわずかでも、何千という部品が噛み合って動くピアノでは、タッチの重さや音の伸びとして表に出てきます。
ハンマーやダンパーに使われているフェルトも湿度の影響を受けます。湿気を含んだフェルトは柔らかくなり、音がこもった印象になります。乾燥が続くと逆に締まって、硬い音に振れることがあります。
金属部品はもっと分かりやすく、湿気が多い状態が続けば弦やチューニングピンが錆びる方向に進みます。錆はいったん出ると元に戻せません。湿度管理が「後から取り返しにくい」種類の手入れだと言われるのは、この不可逆な部分があるからです。
適した湿度・温度の目安
ピアノにとって過ごしやすい湿度は、おおむね50〜60%程度が目安とされます。40%を下回る乾燥や、70%を超える多湿が長く続く状態は、どちらも避けたいところです。温度は人が快適に過ごせる範囲、15〜25度程度であれば大きな問題にはなりません。
ただし、数字そのものより大事なのは変化の急さです。一日のうちで湿度が大きく上下する部屋は、目安の範囲に収まっている時間が長くても、木部にとっては負担になります。エアコンを入れた瞬間だけ整う部屋より、多少ずれていても一日を通して安定している部屋のほうが、ピアノには向いています。
まずやっておきたいのは、ピアノの近くに温湿度計を1つ置くことです。部屋の反対側と、ピアノのそばとでは数字が違うことも珍しくありません。感覚で判断するより、数字を見てから手を打つほうが確実です。
梅雨と夏の対策
梅雨から夏にかけては、湿度が70%を超える日が続きます。この時期に起きやすいのは、鍵盤のタッチが重くなる、音がこもる、まれに鍵盤が戻りにくくなるといった変化です。金属部品にとっても、一年でいちばん条件の悪い時期になります。
基本は、部屋そのものの湿度を下げることです。除湿機やエアコンの除湿運転で部屋を管理するのがいちばん素直な方法で、ピアノだけを個別に何とかしようとするより効きます。雨の日に窓を開けて換気すると逆効果になるので、湿度の高い日は閉めておいて機械に任せます。
あわせて、風の通り道を作っておきます。ピアノを壁にぴったり付けていると背面に空気が回らず、そこだけ湿気がたまります。壁から少し離す置き方には音のうえでの理由もありますが、湿気の面でも意味があります。詳しくはピアノの置き場所の決め方で扱っています。
冬の乾燥期の対策
冬は逆に、暖房で湿度が30%台まで落ちることがあります。乾燥が続くと木部が縮み、接着部分に負担がかかります。調律が狂いやすくなるのもこの時期です。
対策としては加湿器を使うことになりますが、置き方に注意が必要です。ピアノに向けて蒸気を直接当てるような使い方は避けます。狙うのは部屋全体の湿度であって、ピアノの表面を濡らすことではありません。加湿器はピアノから離した場所に置き、温湿度計で部屋の数字を見ながら調整します。
もう一つ、暖房の風がピアノに直接当たる状態も避けたいところです。エアコンの温風、ファンヒーターの吹き出し口の向き、床暖房の上への設置。いずれも局所的に乾燥と温度差を作ります。冬の間だけでも向きを変えられるなら、変えておく価値があります。
除湿剤・調湿剤の使い方と注意
ピアノ用として、内部に入れる乾燥剤や調湿剤、湿度を一定に保つためのヒーター類が売られています。これらは補助として有効ですが、いくつか注意点があります。
まず、こうした用品は部屋の除湿機や加湿器の代わりにはなりません。あくまで部屋を整えたうえでの補助と考えます。次に、交換時期を過ぎたまま入れっぱなしにしないことです。吸湿しきった乾燥剤は役目を終えていますし、製品によっては吸った水分が液状になるタイプもあります。ピアノの内部に置き忘れるのは避けたい状況です。
ヒーター類のように電気を使うものや、内部に固定して使うものは、取り付け位置の判断が必要です。自己流で内部に入れるより、次に調律を頼むときに相談して、そのピアノと部屋の状態に合うかを見てもらうほうが安全です。調律の頼み方や頻度については調律の頻度と呼ぶタイミングにまとめています。
電子ピアノの場合はどうか
電子ピアノは木の響板や弦を持たないため、湿度で音程が動くことはありません。その意味では、アコースティックピアノほど神経を使う必要はないと言えます。
とはいえ、湿気を無視してよいわけではありません。中身は電子機器なので、極端な多湿は基板や接点にとって好ましくありません。鍵盤部にハンマーアクション機構を持つ機種では木材が使われていることもあり、その部分は湿気の影響を受けます。結露が起きるような環境、直射日光、水回りのすぐ隣といった条件は、アコースティックと同じく避けておきます。
結局のところ、人が快適に過ごせる湿度と温度を保っておけば、電子ピアノで問題になることはほとんどありません。機種ごとの構造の違いについては電子ピアノの選び方で触れています。住環境の都合で湿度を安定させにくい部屋しか用意できない場合、楽器そのものの選択を見直すという考え方もあります。